今年は、ベートーヴェン生誕250周年で、本来なら今頃は各地で様々なコンサート、リサイタル、イベントなどが開かれていたことでしょう。この収束が見えないコロナ禍が無ければ、私も何かしらのコンサートに出かけているかも知れません。
人とは困難に出会うと様々なものに「支え」を見い出そうとします。「音楽」もその一つかと思います。またその支えとなる「音楽」も人や時代によって違うかと思いますが、私もまたベートーヴェンの音楽に生きる力を感じた一人です。この60年余り、さしたる事も成さず、日々を重ねてきただけのような人生ですが、その折々でベートーヴェンの音楽に支えてもらったような気がしています。
もとより、私は音楽の専門家でもなく、知っているベートーヴェンの曲はそのほんの一部ですが、大切な曲一つを選べと言われたら私は「ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61」を上げます。何度か自分も合唱で参加したことのある「第九」やその他の作品のように、困難→克服、悲しみ→喜び、不安→解放、暗→明、それらすべてを包み込む「生命力」がこのヴァイオリン協奏曲の根底にも流れているように感じます。
それを最も感じるのは第三楽章の「ロンド」です。この主題は美しく、包容力があって、明朗活発で心地良く、「第五交響曲」のように力まず、肩肘張らずにに人を前向きにしてくれる曲調です。ある意味「第九」の「歓喜の歌」に通じるところがあります。そして中間部の短調に転じてファゴットと織り成す音楽は、他に比べることの出来ない美しさです。トリルを交えながらまた長調に戻っていくところは(個人的感想で申し訳ないのですが)涙をぬぐって顔を前に向けるイメージがあります。マーラー「復活」の男性合唱の「Bereite dich zu leben!」(ベライテ ディッヒ ツー レーベン 生きる覚悟をするのだ!)と通ずるところがあります。
ベートーヴェンの前後にも多くの作曲家がヴァイオリン協奏曲を書いていますが、その根底に流れる生命力、曲調の美しさ、オーケストラと一体になったスケールを凌駕する作品は他には無いと思います。この200年余りの間、消え去らずに引き継がれてきているのはその明確な証拠かと思います。
演奏家にとっても、技巧的なものではなく、この曲を弾きこなすのは難しいと聞いたことがあります。恐らくこの曲の根底にあるものを理解し、体現するには必要とする時間があるのでしょう。これまでに古今東西、多くの「名演」があるかと思います。また、インターネットが発達して、海外のコンサートや古い時代の「アーカイブ」の演奏が、自宅に居ながら自分の好きな時に容易に聴けるようになりました。便利な時代になりました。
私がクラシック音楽を好んで聴くようになったのは、中学校2年生の頃でした。音楽とは無縁の家庭で、家には「ステレオ」(古い言葉ですね)のようなレコード(これも古い)再生装置はありませんでした。その頃、「ラジオカセット」が発売されるようになり、音楽が少し身近になってきた時代でした。ちょうど「ビートルズ」がリバイバルで流行っていた頃で、私もラジカセの安いものを買ってもらい、FM放送でビートルズの曲を録音したりして楽しんでいました。
その年、カラヤン指揮のベルリンフィルが来日して、かなり話題となりました。クラシック音楽も好きな同級生に教えてもらい、カラヤンの来日公演の中継を録音したのを思い出します。ベートーヴェンのプログラムで「第五」と「第六」だったかと思います。
その後、FM放送で録音したドボルザークの「新世界」にはまってしまいました。ノイマン指揮のチェコフィルでした。そこから様々な曲を主にFM放送で聴くようになりました。そう言えば、当時「FMfan」なんていう雑誌がありました。それで放送時間や演奏時間をチェックして、90分テープにしようか120分テープにしようかなどと悩んだりしていました。
その後、卓上のレコードプレーヤーを購入して、初めて買ったレコードが、ノイマン指揮の「新世界」とシェリング独奏、イッセルシュテット指揮のベートーヴェンヴァイオリン協奏曲でした。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を初めて聴いたのはやはりFM放送のヨセフ・スーク独奏、エイドリアン・ボールト指揮のニューフィルハーモニア管弦楽団の演奏でした。この演奏のレコードが店には無くて、いろいろ悩んで、財布と相談して買って帰ったのが、シェリングの廉価版(1300円)のレコードでした。これが出会いとなりました。
最初は聴きなれないカデンツァ(2、3楽章、恐らくシェリングのお師匠さんのフレッシュのもの)に戸惑いましたが、何度か聴いていくうちに、その端正で折り目正しく、包容力があり、深く美しい響きに魅せられてしまいました。その頃進路を決める時期で、岩波新書・無量塔蔵六著「ヴァイオリン」を読んで、自分もヴァイオリン製作職人になりたいと思い悩んだ時でもありました。結局、その「一歩」は踏み出せずに終わってしまい。今の自分があります。
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シェリング演奏のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲というと、昨年引退を表明したベルナルト・ハイティンク指揮のロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団との共演の方が、より円熟味があって良いという方が多いようですが、私は最初に聴いたのがイッセルシュテットとの共演でしたので、すっかりそちらに染まってしまいました。端正な演奏の奥から伝わってくる強い思いは、どちらの録音からも感じられます。
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今回、YouTubeで動画を検索中に、シェリングの晩年の演奏をスタジオで収録した動画がアップされているのを見つけました。早速視聴しましたが、画像・音質云々よりも、実際に演奏している映像を見ることが出来たことに感激しました。決して派手な演奏スタイルではありませんが、音楽への真摯な感情が伝わってきました。この動画にはバッハの曲やシェリングの肉声も収録されていました。貴重な映像かと思います。https://www.youtube.com/watch?v=mA_-KatnEBw&t=2736s Henryk Szeryng Beethoven Violin Concerto ベートーヴェン バイオリン協奏曲 byシェリング
そんなこんなで、この週末はYouTube三昧になってしまいました。
今回は、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の動画で、私が気になったものをいくつか紹介して終わりにしたいと思います。
☆☆☆アラベラ・シュタインバッハー 2007年の来日公演の模様。ネヴィル・マリナー指揮 NHK交響楽団との共演。今は亡きマリナーの80代で溌剌とした指揮ぶり。シュタインバッハーがその指揮のもと生き生きと輝いています。確か、彼女が代役としてのチャンスを得て、この曲でパリデビューを飾った時の指揮者がマリナーだったと思います。https://YouTube/watch?v=zB1FOv8DzIw&list=RDzB1FOv8DzIw&start_radio=1&t=2049
☆☆☆クララ・ジュミ・カン 今年の2月の新しい映像。アンドレイ・ボレイコ指揮 ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団との共演。 彼女にはシュタインバッハーとは違った感じの繊細さと鋭さがあるように思えます。https://www.youtube.com/watch?v=hyMfJa8qN2Q
☆☆☆イツァ―ク・パールマン ダニエル・バレンボイム指揮 ベルリンフィルハーモニー管弦楽団の演奏。パールマンの持つ音楽の温かみは独特のものがあります。 https://www.youtube.com/watch?v=cokCgWPRZPg
☆☆☆ミラ・ゲオルギエヴァ ロッセン・ミラノフ指揮 新ソフィア交響楽団の演奏。Amazonのレビューに出ていたのが気になって、Amazon musicのストリーミングで聴いてみました。とても丁寧で美しい音色だと思います。リリース時期からすると、ゲオルギエヴァがまだ20代の頃の演奏のようです。オーケストラもユースオーケストラのようで、奏でられる音楽も瑞々しい響きがあります。YouTubeにも投稿されていました。
第一楽章https://www.youtube.com/watch?v=7_ojCc-Z2Us&list=PLn0apTwXmyiPfzF2Y18xyIq1aLyoEq3Y_&index=8
第二楽章https://www.youtube.com/watch?v=EANloCuTSPU&list=PLn0apTwXmyiPfzF2Y18xyIq1aLyoEq3Y_&index=7
第三楽章https://www.youtube.com/watch?v=L50ErrDCDkw&list=PLn0apTwXmyiPfzF2Y18xyIq1aLyoEq3Y_&index=12
参考:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ヘンリク・シェリングhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0
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